バナナ争奪戦
私が4歳のときに両親にねだって飼うことになったゴールデンレトリバーの「ランディ」。ランディは室内犬で、ランディと私は家の中で一緒に育った。家中を走り回って追いかけっこで遊んだり、私が悪さをしてお母さんに怒られたときはランディが心配して私に寄り添い、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を舐めて慰めてくれた。
私の家では「犬になんでも食べさせるのは健康上良くない」という判断で、ランディは基本的にドッグフードしか食べられなかったが、果物のバナナだけは唯一食べてもいいというルールだった。ランディはバナナがとにかく大好きだった。家族の誰かがキッチンでバナナの房から「ポキッ」と一本もぎ取ると、その音を聞きつけたランディがどこからともなく全力疾走でやってくる。バナナが食べられることを期待したつぶらな目で見つめられるとこちらもいたたまれなくなり最後の一口分を分けてやる。でも私も家族もできれば一本丸ごとバナナを食べたい。気がついたら家の中では家族 VS ランディのバナナ争奪戦が始まった。バナナを房からもぐ音がランディにバレないように咳払いをしてみたり、ランディがドッグフードを食べてるタイミングを見計らってバナナをもいでみる。しかしランディは人より何倍も耳がいい。私たちがどんなに策をこらそうともバナナをもぐ音はバレて、ランディは飛んでくるのだ。そんな争奪戦がしばらくすると家族全員根負けし、最後の一口分はランディにあげるのが習慣になった。
ランディは私が14歳の時に寿命で死んだ。10年以上経った今も、バナナを房からもぐ時はどこからかランディが走ってくるような気がして少し警戒してしまう。
WRITER
石田愛美(いしだまなみ)
3KGのデザイナー。ホラー映画とお笑いが好き。週末はスープカレー屋と映画館に出没しています。元ミュージシャンとの噂。新婚(2019のとき)
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